「こちらへ来い」
数メートル先から手を差し出すザイード。
「来なければその男がどうなるか分かっているだろうな。アークの王と言えど一人でこの数を相手に出来るとは思うまい」
ギュッと俺の服を握る手が強まる。
喉の奥を詰まらせ、何も言わずにザイードを見つめるエレナ。
何も言葉を発しないが、心の中では激しい葛藤が渦巻いているようだった。
「分かり…ました……」
そう言ってザイードから視線を外し、項垂れる。
離さないとばかりに強く握りしめていた俺の服から手を離し、そっと一歩を踏み出すエレナ。
俺の方を振り返りもせずにザイードのもとへ行こうとするその背に苛立ちが増す。
パシッ…―――――
二歩目を踏み出すよりも先にエレナの手を取り、引き戻した。
振り返ったエレナの表情は辛そうに歪んでいた。
涙に濡れる瞳を真っ直ぐ見ながら告げる。
「もう離れることは許さない」
この言葉にエレナは一瞬目を見張るが、たちまち瞳いっぱいに涙が浮かぶ。
「ッ…でも…シルバが……」
先ほどまで苛立っていたはずだが、声を詰まらせて答えるエレナを責められようか。
否、責められるはずがない。

