致命傷になるほどではないが紅い血が流れる光景はエレナに見せたくなかった。
こちらを向いた銀色の瞳はやはり動揺で揺れていた。
「殺してはいない」
その言葉に安堵したかのように息をつくエレナ。
以前の俺ならば確実に殺していた。
それが追っ手で敵国の者ならなおさらのこと。
俺も甘くなったものだ……
このような状況の下、心の中で自嘲気味に笑っていればエレナが俺の服をキュッと引っ張る。
「シルバ…この人たちが待ち伏せていたとしたらもう…」
「あぁ、そうだな」
続く言葉は消えたが、エレナの言いたいことは分かっていた。
「恐らく廊下に倒れたあの男たちが見つかったんだろう。ここだけではなく城外へ続く扉全てにギルティス兵が待ち伏せていたはずだ」
見つかってから時間が経っていなかったのが幸運だった。
ギルティス兵も数ある扉の見張りに、しかも首尾よく配置することは出来なかったのだろう。
その結果、俺たちを待ち伏せていたのは二人だけ。
不意を突かれて切りかかってきた者を相手にするには二人が限度だった。
そして、最悪の事態は訪れた。

