「シルバ様ッ!」
森の中から切羽詰まった声が聞こえた。
その声のした方を向けば、見覚えのある家臣が血相を変えて走ってくる。
胸がザワつき何か嫌な予感がする。
「静かにしなさい。ここは神聖なる場ですよ」
大きな音を立てて走ってきた男をピシャリと諌めるウィル。
普段、物腰が柔らかいウィルがこうして厳しい一面を見せると、家臣は皆背筋を伸ばして冷や汗をかくのだが…
その家臣はウィルの一喝など目もくれずそのままの勢いで石畳に足を踏み入れた。
「何事だ」
ローブに腕を通しながら、膝を折る家臣に投げかける。
「お、恐れながら、ご、ご報告があります」
見事にどもる男の声。
ずっと視線を石畳の床に向けているので分からないが、おそらく男の額には冷や汗が浮かんでいるだろう。
「言え」
一言そう言った声が低かったからか、男はビクッと肩を揺らし、躊躇いがちに口を開いた。
「ッ……禊の儀式中のエレナ様と付き人の侍女が何者かに攫われました」
ローブを整えていた手がピタリと止まる。
目を見開き、息が詰まるほどの苦しさを覚えた。
今この男は何と言った?
ドクン…と大きく心音が刻まれ、動悸が激しくなる。
「エレナさんが…攫われた?」
ウィルの掠れた声が妙に大きく響く。

