「ここであまり時間はかけたくない。さっさと連れて行くぞ」
誘拐発言をさも普通であるかのように告げる兄。
一方の弟はと言うと、一人難しい顔をして口を開く。
「けど兄貴、二人いるぞ?どっちが噂の姫さんなんだ?」
「どっちも連れて行けばいいだろ。この場を見られたんだ。もう一方も連れて行かなければ追手に追いつかれて帰れないからな」
こちらを見据えて獰猛に笑う男はまるで獲物を追い詰めた時に見せる愉しそうな瞳だった。
ゾクッと背筋を走る悪寒。
今すぐこの場を離れろと頭の中で警鐘が鳴る。
クンッとニーナの衣服を引っ張り、逃げようと訴えた。
それに気づいたニーナが私の手を取る。
そして……
「ベロニカッ!」
ベロニカにも走れと言うように叫び、私の手を取ったまま走り出したニーナ。
しかし―――――
シュッ……
「きゃッ!」
私とニーナの間を掠める何か。
目の前を横切ったそれを目で追えば、短剣が地面に転がっていた。
その短剣を横目で見ながら尚も駆け出そうとするが…
「おっと動かない方が身のためだぜ」
少し低くなった男の声と共に、ギギッと弓がしなる音。
弟の方が矢を構え、私たちに狙いを定めていた。

