わたしが靴を履くのを見守って、慎ちゃんはいつもよりずっとゆっくり歩き始めた。

昇降口を抜けたわたし達の上には、世界を染める朱色の空が優しく広がっている。

雨が降ることはなさそうだった。


「慎ちゃん、どこいくの?」

「黙ってついてこい」

「んー、」


いつもは曲がる角を素通りしてトコトコ進んでいく彼の大きな背中を追いかける。

余裕で並べる速度だけど、なんだか恥ずかしくて定位置になている斜め後ろをゆっくりついていく。


なんだろう、なんだろう。


ドキドキしながら。

ワクワクしながら。

明らかに普段とはなにかが違う慎ちゃんの後を追いかけた。


夕日に焼ける視界。

ほっぺたを撫でる冷たい風。

そして大好きな彼の背中。


感じるのはそれだけ。

でも、それだけで十分だった。


手を伸ばせばいつでも届く位置に愛しい人がいる。

それだけでわたしは幸せだ。


「慎ちゃん」

「なに」

「慎ちゃんしんちゃん」

「……なに」

「ふふー、呼んだだけ」

「ほんと黙ってろ、お前」


今日何回目かの溜め息を吐いて彼が小さく振り返る。


「?」


歩くのをやめた彼につられて足を止めると、不審に視線をさ迷わせる慎ちゃんの顔を見上げて首を傾げた。