ベリッと剥がされて、そのまま振り向きもせずに階段を降りていく慎ちゃんを目で追った。


家では着物で過ごさないといけないような環境で育った慎ちゃんは、昔から考え方も古風な男だった。

クリスマスやバレンタインは彼の中では存在しない行事で、それどころか、彼女のわたしと人前で手を繋ぐことにすら難色を示す。

かと言って、最近では部屋に遊びに行っても極力接触は避けてるみたいだし、それは彼の視界に入ることさえ難しいほどだ。

隣で一緒に歩いてるのに、触れられる距離にいるのに、こんなに遠い存在に感じてしまうのは正直悲しい。

それでも惚れた弱味と言うやつで、幼稚園の頃から好きだった慎ちゃんをどうしても嫌いになることはできないでいるわたし。

自分で言っちゃなんだが、同い年の女の子の中でも結構モテる方で、仮にも彼氏からこんな扱いされてるのを見ている男子から告白されることだって多い。

冷徹だと言われる慎ちゃんのどこが好きなのだと、問われることもよくある話だった。





「遅い」


とぼとぼ歩いて靴箱に向かうと、壁に凭れて腕を組んでいるその人と目が合った。


「……待ってたの?」


いつもなら歩幅を狭めつつも、決して止まることはしない慎ちゃんが。


「なに」

「ごめんちょっと今感動してる」

「いーから、行くぞ」

「あ、うんっ!」


わたしのために足を止めてくれようとは。


「雨降るんじゃない?」

「降られたら困るっつーの」

「確かに、傘持ってないしね」

「そーゆーことじゃねーよ」

「?」