「莉乃ー!お迎え来たよ!」

「あ、はーい!」


色んな音が入り交じる狭い部屋に響く声に、わたしは慌てて右手を挙げた。

もう慣れた光景に、教室に溢れる人達はさして興味を示すでもなく「りの、ばいばーい」と手を振ってくれる。


「旦那によろしく」

「らじゃー!いつもありがとね」

「前見てないと転けるよ」

「だいじょーぶ、っ、わぁ!」


わたしを呼んでくれた結衣と教室の真ん中ですれ違った。

振り返って手を振ろうとした瞬間、ドアのサッシに足を取られて背中から廊下に投げ出される。


「っと、」

「っ……え、あ、慎ちゃん」

「お前ほんと危なっかしいから」


思わず目を瞑って衝撃に備えたわたしの体は、倒れることなくすぐに受け止められた。

そろっと開けた目に入ってきた大好きな顔が、ものぐさにため息を吐いている。


「ナイスキャッチ」

「あほか」


冷たいとか怖いとか言われている薄茶色の瞳に自分が映り込んでいるのが見えて、自然と顔がにやけた。


「帰んぞ」


そんなわたしに目を細めてもう一度息を吐いた慎ちゃんは、それだけ言うとさっさと先に行ってしまう。

凛と背筋を伸ばして歩く姿は、どの角度から見ても惚れ惚れするほどで。


「待って待って!」

「抱きつくな」

「後ろ姿がカッコよすぎてつい」

「歩けない」

「ぎゅううぅぅぅぅ」

「離れろ」