通学のピークよりかなり早いこの時間に、自転車を飛ばして細道を駆け抜けるその人。

着てる制服から同じ学校の人だって言うことは分かるんだけど、校内で見つけたことはなくて。

いつもこの数分だけ彼を見るのが習慣になっていた。


「っあ、」


少しだけ前にいたその人を、今日も橋の手前で電車が追い抜く。

その時に。


「やっば、」


こちらを流し見た彼と、目があってしまった、気がした。


それは一瞬の出来事で。

本当に目があったのかも分からないけど。

たったそれだけのことで、私の心臓はバカみたいに鼓動を速めていた。





「ふぅ、」


それから10分。

開いたドアから雪崩のように降りていく人の波を見ながら深呼吸。

最後の最後に電車を降りて、波が引いたホームを歩いた。

鞄の中から伸びたイヤホンを耳につけて、聞きたい曲を選びながら改札を抜ける。

駅からまた10分。

お店もなにもない、街灯も疎(まば)らな道をひたすら歩いて学校に向かうことになる。