『アリ、帰りな』


大丈夫、俺は寂しくないよ。

海の中は暖かいし、大好きな魚をいっぱい見れてこれはこれで楽しいし。

アリに触れないのは悲しいけど、たまに顔が見れれば十分幸せだ。


だから、もう帰りな。


ルイなら安心してアリを預けられるから。

早くその想いに気づいてあげて。

アリは、俺より幸せになってもらわなくちゃ困るから。


『大好き“だった”よ、アリ』


俺はずっとここにいるから、だからもう泣かないで。


「アリアが泣いてると、あいつも苦しいんじゃないかな」

「っ、」

「ほら、あいつ、アリアが泣いてたらいつだってアリア以上に悲しい顔してたでしょ?」

「うん」

「たまには笑ってやらないと、シオンもずっと笑えないよ」


アリの隣に座って海を見つめるルイの顔は、あの頃より幾分か大人びていて。

少し見ないうちに、いい男になっていた。


「帰ろう、アリア。また来よう」

「……うん」


そっと、大事そうにアリを立たせて浜を上がっていく姿に、ぽろりと、俺の目から涙が落ちた。


『っ』


死んでからでも泣けるんだ、なんて少しビックリしながらも、俺は本当に久しぶりに笑った。





二人を見送ってポツポツと振りだした雨が体を抜けていく。

頬を伝う涙を洗い流してくれたらいいのに、今の俺では叶わない。


『っく、っ、』


アリの隣には俺がいなきゃいけなかったのに。

アリの涙は俺が拭ってやらなきゃいけなかったのに。



『ごめん、アリ、』


悲しい思いをさせてしまって。

寂しい思いをさせてしまって。


『俺の分まで、生きて……』


そしてまた話せる日が来たときに、いろんなことを教えてほしい。

この海から離れられない俺に、いろんな世界を教えてほしい。


『ありがとう、』



【海に滲む過去】
(俺を愛してくれて、ありがとう)