好きで好きで堪らなかった。
全部全部好きだった。
でも、どんなに想いは強くても、これはお兄ちゃんを困らせるだけだって分かってるから私の中だけで熱が燻っていて。
その想いは火傷しそうなほど熱いのに、どうすることもできずに必死で押さえ込んできた。
叶わないって分かってるから、なんとかなかったことにしようとして。
その度に心臓が軋んだ。
苦しくて、悲しくて、痛かった。
「入ってもいい?」
コンコン、と控えめなノックの後に聞こえてきた声に慌てて顔をタオルに押し付けた。
「どーぞ」
「お邪魔しまーす」
どこを触ってもふわふわ柔らかそうなその人は、ドアの向こうからひょっこりと顔を覗かせてから部屋に入ってきた。
もうすぐ私のお姉ちゃんになる人。
女の子のお手本みたいな可愛い人。
「これね、この前お友だちと沖縄に行ったからそのお土産」
「ありがとう」
「かわいいでしょ」
「うん」
彼氏の妹の好きなものも知ってる。
完璧だよ、まったく。
「大事にするね、お兄ちゃんのこと」
悔しいのは、本当は憎いはずのこの人のことも好きになってる自分がいる事実。
お兄ちゃんと付き合い始めてから、私のことを本当の妹みたいに可愛がってくれたから。
うっかり心を許してしまった。
「出来の悪い兄ですが」
「ふふっ」
「仲良くしてあげてね」
「うん、約束」
小さく笑って小指を出されて、無意識に体に入っていた力が抜けた。
「二人ともー、ケーキ食べない?」
「「たべるー!!」」
【方恋の君】
(大好き“だった”と言えるときまで)