「おー、まだいたのか?」

「ついつい集中しちゃって」

「傘持ってんの?雨、ひどいけど」

「あー、大丈夫です」

「そか。んじゃ、気ぃつけて帰れな」

「はーい」


慣れた声は担任のそれで、鍵を収めて適当に返事を返しつつ立て付けの悪いドアを潜り抜けた。

空気がどんどん重くなる。

歩く度にべっとりと、全身を気だるい感覚が纏わりついてくる。


一向に止む気配のない雨粒を仰ぎながら靴を投げた。

瞬間、パンッと乾いた音と共に僅かに上がった土煙すら湿ってるみたいで。


......さいあく。




帰ろう、さっさと帰ってお風呂入ろーー


「!」

「あ、」


下駄箱から死角になっていた昇降口に、ゆらりと人影が揺れる。


「びっ、くりしたー」


完全に油断してた私の声は、動揺を隠せずに少しだけ震えていた。

薄暗い中で音もなく立たれたら誰だってこうなるだろ、普通。