私が言うのもおかしいけど、奏くんはかなりのシスコンだ。

学校では格好つけてクールぶっているようだけど、家ではうんざりするくらい私にべったりで......最近でもお風呂に押し入ろうとするような、言ってしまえば変態だ。


「俺、花音のこと本気で好きだもん」

「......ぜってー、殺すっ」

「ダメだって、奏くんー!」





って、今日はこんなことをしにわざわざ上級生の階に来たわけじゃない!





周りからの好奇の視線も気になってきたところだった。

これ以上ここにいるのは耐えられない。


「っ奏くん、私、宇野先輩に用事があるから!」

「「............はっ?」」


固まった2人を一蹴して宇野先輩の腕強引に引っ張ってその場を離れる。

別に奏くんの前で渡してもよかったんだけど、あの場では無理だった。

人が多すぎる。










「......えぇーっと、花音?」

「これ、」

「っへ?」


放課後はどこも人が多くて、結局屋上まで逃げてきてしまった。

さすがの宇野先輩も困惑気味。


これはさすがにベタ過ぎるシチュエーションなんじゃないか......いや、特に意味はないんだけど。


「え、っえ!」


ほら見ろ、この顔。

空気が読めない宇野先輩は、私が差し出した小さい箱に確実に良からぬ期待の目を向けている。


「たっ、ただの、お返しですから!」

「えーっ、」

「なにが“えーっ”ですか、」


そう、ただのお返し。

バレンタインになぜか私は先輩からチョコを貰ってしまっていた。

それも有名な高級チョコの詰め合わせみたいなやつを。