上級生のクラスの前って言うのは、やっぱり何度来てもビビってしまうもので。
廊下を通る先輩たちがちらちらこっちを気にしているのがとても居心地悪い。
目当ての人は見つからないし、帰ろうと踵を翻したちょうどその時ーー
「かーのんちゃんっ」
「っわ、ビックリしたー。脅かさないで下さいよ、宇野先輩、」
いきなり背中から抱きつかれて本気でちょと涙目になってしまった。
「今日もかわいいねー、花音は」
「っちょ、せんぱっ、」
情けない声を出す私にお構いなしでぎゅうぎゅうと過度なスキンシップを図る先輩。
相変わらず、空気が読めない人だ、この人は。
「皇(おう)テメー、俺の可愛い妹に盛ってんじゃねーよ殺すぞ」
高いところからどす黒い声が降ってきたかと思ったら、背中にあった体重が一気にどっかに吹っ飛んだ。
......いや、正確に言えば私より30センチ以上背が高い奏くん(お兄ちゃん)に宇野先輩が摘ままれたんだけど。
「いたいっ、奏、いたいってばー!」
「知るか!テメーが花音の近くにいるだけで悪影響なんだよっ、離れろ、っつーか消えろ!」
「いーやーっ!」
「......っち、」
「ままま待って奏くんっ、落ち着いて!宇野先輩もちょっと黙って下さい!」
今の舌打ちで奏くんの瞳が悪い光り方をしていた。
本気で殺りかねないのだ、この人は。