咲々がこうして、時々泣いていることを俺は知っていた。

出迎えてくれた時、目が赤かったり顔に涙の跡が残ってることがあったから。


普段、人より何倍も気丈に見える咲々だけど本当は人より何十倍も寂しがり屋だった。

そんなこと誰よりも分かっていたはずなのに、仕事を始めてみればなかなか時間が作れず見てみぬふり。

夜、こうして咲々が起きていなかったら1日喋らない日もあるだろう。


「ごめん、帰るの遅くなって」

「仕事なんだから仕方ないよ......それより、そろそろ離れてくれない?」

「やだ、たんない」

「もうほんと、恥ずかしくて死んじゃいそうなんだけど」

「誰もいないよ」

「いや、そう言う問題じゃなくて」

「......泣いてたの?」

「え、」

「泣いてたの?」


ばかばかしいかもしれないけど、最近、本気で思う。


咲々に悲しい思いをさせてまで、好きな仕事を続ける意味があるんだろうか、って。





「ケイ、離れて、」

「やだ」

「顔が見えないから、離れて」


少しの間を取って、仕方なく心地いい体温から離れた。

咲々は困ったような笑みで俺を見ている。

子どもを咎めるような顔。

嫌に大人びたその表情が、咲々の本心を隠しているようで......。