腕の中から佳奈を解放して、もちもちのほっぺたに触れるだけのキス。

最近は仕事が忙しくてあんまり構えてなかったし、今日はしっかり充電しとかないと。


「こら、さわっちゃダメだって」

「でもー、」

「俺がやるから、ね?」

「うー、」


早速しゃがんで破片に伸ばそうとする彼女の細い手を掴む。


「言うこと聞いて」

「......はい、」


ごめんね、って寂しそうに割れたコップに謝る佳奈。

それからまた俺に視線を上げて口を尖らせて言うのだ。


「あたしがコーヒー入れてる間に、かずくんがお掃除してくれる?」


一言一句ぶれることない台詞は今日で何度目のそれか。


「気を付けてね」

「うん!」


今となってはもう日常になった佳奈との生活。

ほんの何年か前までは手の届きそうにないくらい上にいた彼女。


「あ、かずくん」

「ん?」

「おはよぉ」

「......おはよ、佳奈」


ドジな奥さんのおかげでどうしようってくらい幸せな毎日があることを、この瞬間にいつも感じる。

きっと明日もまた、この笑顔で言ってくれるんだろう。


おはよぉ、かずくん





【目覚めの魔法】

(わぁ!)
(......佳奈さーん、)