「今日は、なんの日だ」

「え?」

「っ、今日だよ、今日!」

「……えーっと、」


なんでちょっと怒ってるのかがさっぱり分からないけど、とにかく君、顔が真っ赤だよ?


「今日は、」


今日は、わたしの誕生日だ。


今までに一度も祝ってもらった覚えはないし、今年も祝ってもらおうなんて思ってなかった。

だから別にあえて触れなかった。


「誕生日、おめでとう」

「っ」


立ち止まった慎ちゃんのすぐ後ろには、わたしが好きなケーキ屋さんがあって。


「どーでもいいことはペラペラ喋るくせに、なんで言わねーんだよ、お前は」


頭をガシガシと掻きながら、不機嫌そうに眉を寄せる彼から目が離せない。

視界が揺れる、世界が滲む。


「前に言ったろ?俺は本当に大切に想った奴のことしか祝わねーって……なのに、莉乃の誕生日忘れるわけないだろ」


ずっとずっと好きで、好きで好きで大好きで、やっと手にいれたのにどこかでわたしは諦めていた。

慎ちゃんはわたしに押し負けて、仕方なく付き合ってくれてるんじゃないかって、心の隅っこで思ってた。

だから不安で、だから悲しかった。

彼が誰よりも恥ずかしがり屋で、誰よりも嘘が嫌いだってこと、知ってたはずなのに信じきれてなかった。


「あんま言わねーからよく聞けよ」


ふわっと、焼きたてのケーキの匂いが風に連れられてわたし達を囲んだ。


「好きだよ、莉乃」


バカみたいに泣きじゃくるわたしを腕の中に収めて、慎ちゃんは「泣くなよ」って小さく笑った。



「ありがとう、慎ちゃん」



わたしも、大好きだよ。



【ロールキャベツとケーキ】
(これからは遠慮しないから)
(……えっと、なにを?)
(いろいろ。覚悟しとけよ)
(…………え、)