いつものように癇に障る笑みを浮かべたまま。

「ちゃんと理由はあります」

穹は説明を始める。

「これまで僕は、自分の地位について真実を語った事はありませんでした。嗅ぎ回られてもばれないように隠蔽工作も万全にしていました。何故か…普通の人間ならば、僕の正体を知れば距離を置くか、ゴマを擂って取り入ろうとするかのどちらかだからです。そんな浅薄な人間関係を僕は望んでいない。だからこれまでは正体を明かす事なく、影の薄い存在に徹していたのです。でも…」

穹の前髪の隙間から、瞳が龍太郎達を見つめる。

「あなた方は違った。僕がどんな権力者であろうと、傲慢な態度には反抗し、盗聴という汚い手段には憤って拳を振るった。『権力者』である僕ではなく、『文野 穹』という僕個人を見てくれる…そう信じて嘘をついたのです」