「今日は綾崎だけなのか」
「そうです」
袴姿が凛々しい先輩は、静かにドアを閉めると、本棚から数冊過去の生徒会誌を抜き取っていく。
そういえばこの間、会計表がどうとか言ってたっけ。
「綾崎」
「っはい!」
突然声をかけられて、思わず大きく返事をした。
先輩はくるっと振り向いて、じっと私を見つめてくる。
「良い返事だな。お前は今何をしていたんだ?」
「えっ、」
ぼんやりしているように思われたのかな。
まぁ、手を見ながら椅子に座ってただけにしか見えないからなぁ。
「えーっと、来週の定例会の資料まとめてたんです!これ分厚くてなかなか綴じなくって。あとこれだけやったら終わりなので、今からちゃちゃっとやっちゃいます!」
慌ててそう言うと、「そうか」とだけ言って、また本棚に視線を戻した。
作業に戻ろうとするも、間が持たないと感じ、先輩に話しかけてみる。
「先輩はまた部活ですか?」
「ああ」
「剣道部でしたよね?確か3年が引退して部長になったとか」
「そうだ」
「生徒会と両立するの、大変じゃないですか?」
「余裕だ」
「すごいですねぇ。先輩、いつも忙しそうなんで、疲れてないのかなーって思います」
「疲れなんて感じている暇もない」
口は次から次へぺらぺらと動くのに、肝心の指が動かない。
こんなに冊子分厚かったっけ?!
グググッ、とホチキスをありったけの力で押すも、綴じた感触が全くない。
親指の感覚がなくなり、汗で指がずるっと横に滑った。