何となく、主導権は私のものになったと実感。
満足げに口元に含み笑いを浮かべ、それをタオルの影に隠す。
「千波ちゃん!」
剣夜さんは数歩で隣に追いつき、また肩を並べて歩き出す。
「あ、そういえばさ、唇切ってたよ」
「えっ?あっ、本当だ」
さっき噛みしめていた時に切れたのかも。
舌先に少し血の味がするような。
部室に運び終わったら鏡見よう。
「まぁこれぐらい大丈夫ですよっ………?!」
たった一瞬。
切れた唇に沿うように舌が触れられ。
軽い音が立ったと同時に、私は走り出していた。
前言を撤回することになるなんて!
悔しさと恥ずかしさと、説明できない高揚感と。
顔に血が上っていくのをじわじわと感じながら、
剣夜さんに敵いそうにない
と、思い知らされたのだった。
▼早川千波の場合 Fin▼