こう言っちゃえば、もうおしまい。


剣夜さんは目が覚めて私に失望するだろうし、私は剣夜さんを切り捨てられる。
全部おしまい。



吐き捨てるように小さく笑い、振り返って剣夜さんに近付く。



「ここまで運んでくれてありがとうございました。もう一人で平気ですから」



何の感情も籠っていないお礼を述べ、さっさとタオルを取る。




こんなに近い距離でいられるのは、今日で最後。
もう近付かないから。





目の奥がじんわりと熱くなる。
これも夏の暑さのせいだ。
全部、全部、暑さのせい。








剣夜さんの肩に掛かっている水筒の紐を指で掬ったその瞬間――



「きゃっ?!」




後頭部をがっしりと掴まれ、前のめりに倒される。
鼻が思い切り硬いものにぶつかり、じんと痛みが走る。






えっ?!


何これ?すっごく痛い。




目の前にある硬いものは、剣夜さん自身だと分かる。
……けど、何がしたいの?





真っ暗な視界のなか、ぐるぐる思考を巡らせていたのを止めたのは、剣夜さんの声だった。





「あんなこと言う割には、泣いてるじゃん」