何だったんだろう。
やっぱり、暑い時に苛々してたからかな。
ちょっと立ち止まっただけで、視界がゆらゆら揺れる。




「ごめんなさい。ちょっとぼんやりしちゃって」

「大丈夫?休まなくていい?」

「平気です」




私も貼り付けた笑みを剣夜さんに見せ、平気なふりをして歩き出す。






「……千波ちゃんさ、わざと?」

「はっ?」





溜め息を吐いて、自嘲気味に声を上げて笑う剣夜さん。
それとは逆に、また沸々と煮だってくる、私の苛々。








「わざとって、どういう意味ですか?」







ここで怒っても意味がないって、そんなこと、分かっている。





「っていうか、さっきから何なんですか?思わせぶりな態度をとって。苛々するんです」





でも、これはどこにぶつければいいの?





「からかうんなら、そこらへんの女にして下さい。頭が悪くて、引っ掛かりやすそうな女」






剣夜さん本人には言いたくなかったけど、まぁいいか。
1週間分の鬱憤の捌け口にちょうど良い。








「剣夜さんは顔が良いし、言い寄ってくる女は掃いて捨てるほど居るんでしょ?その中から自分が良いかもって思った人と一緒になればいいじゃないですか。きっと剣夜さんに尽くしてくれると思いますよ」







べらべらと皮肉ばかり出てくるこの口。
いつもいつも猫を被っていたから言わなかったけど、素の私はこんなに嫌な奴。

ほら、剣夜さんもびっくりしてる。
目の前の私は、あなたが知っている小さい女の子じゃないんだよ。



引いたでしょ?ねぇ?





だから、もうね、構わないでよ。







「私が好きだなんて、言わないで下さい」