あと1cm。
私が首を動かしただけで、壮紀の唇に重なる位置。
しようと思えば、こんな風に考えているうちに出来てしまうのに。
この1cmが、何とも恨めしい。
「……されるかと思った?」
このまま退くのも悔しくて、壮紀のネクタイをまた、握りしめる。
首を縦に振っても、横に振っても、私とぶつかりそうだからか、目を丸くさせて、微動だにしない。
「壮紀。私ね、壮紀のこと好きだよ」
言ってしまったコトバ。
もうそれは、絶対に消すことなんて出来ない。
このままキスしてしまおうかと思い、ネクタイから襟首の方へと手を進める。
「こんな事なら、グロスを塗り直しておくんだった」と、どうでもいい事だけが浮かんでは消える。
「鈴音」
今まさにしようとした直後だった。
私の目の前に、壮紀の大きな手が下りてきて。
私と壮紀の唇の間で、ゆっくりと広げた。


