「確かに、俺達はお互いの事を何も知らないと思う……」


ずっと黙っていた冬夜が、ほんの少しだけ寂しげに言った。


「だから……」


「でも、名字なんて知らなくても人を好きになる事は出来る。それにたぶん……」


あたしを見つめる冬夜は、穏やかに微笑んでいた。


「俺は、柚葉を好きなるのに必要な分くらいは、柚葉の事を知ってると思うよ」


柔らかく緩められた瞳は優しい反面、どこまでも力強く真っ直ぐで…


あたしへの想いを抱いている事に戸惑いも不安も無く、むしろ自信に満ちているようにさえ見えた。