暫くして、戻ってきた伊藤課長は珍しく険しい顔をしていた。 「申し訳ないが、先に失礼させて頂くよ」 お財布からお札を出そうとする伊藤課長を原口係長が手で制した。 「いえ、ここは。わたしの店なので」 「……悪いね、原口くん。野上さん、お先に」 一瞬だけ笑みを作って、伊藤課長は足早に店を後にする。 「お疲れ様でした」 その背中に声を掛けて見送った。