「今日の西林寺くん、なんだか少しアンニュイですわね……」
「憂いを帯びてますわ……体調が優れないのでしょうか……?」
「まあ、看病してさしあげたい……」
「儚げな横顔ですわね……」


上品な仕草で頬に手をあてた少女たちが、ほう、と溜め息を吐く。

彼女らの視線の先にいる少年は、自分の席に座って、肘をついてただぼんやりと外を眺めていた。
一年B組、西林寺直姫である。

(少年は、平たくいうところの“家庭の事情”によって少年の姿をしてはいるが、性別はれっきとした女性であった。
なので、ここでは“彼”ではなく“彼女”と呼ぶことにしよう。)

彼女が憂鬱な表情でクラスメイトの心優しい少女たちを心配させているのは、教室の掲示板に貼ってある一枚の紙が一つの要因となっていた。


『1年B組春の親睦会 開催決定!』


親睦会とは一体なんなのか、春のということは季節ごとにいちいち開かれるものなのか。
そんなことに頭を悩ませているわけでは別になく、直姫が気だるげな顔をしている一番の原因は、深夜までの映画鑑賞による寝不足なのだが。