「ヒロキ、エプロンこれ使っていいの?」


「いいよ―」


平常心を取り戻した加奈子は、キッチンでグラタンを作り始めた。


俺はとりあえず

ダイニングの椅子に座りそんな加奈子を眺めていた。


加奈子は料理は苦手というだけあって、動きがぎこちない。


「ごめんね…下手くそで」


「全然いいよ♪」


俺はニコニコ顔で、一生懸命
料理をする加奈子の背中を眺めた。


上手くても下手くそでも


この家のキッチンに、こういう料理をする背中があることが嬉しかった。


小麦粉とバターからホワイトソースを作る加奈子。


「すごいじゃん。てか料理出来るんじゃん」


俺は加奈子の後ろからホワイトソースの鍋を覗き込んだ。


「ホワイトソースだけは作り方知ってるんだ。でも手際が悪くて…」


バツの悪そうな加奈子の視線に目を合わせると


まな板の上でいろいろなものが散乱していた。


「最後に片付けるから」


恥ずかしそうに肩をすぼめる加奈子。


不得意で慣れない料理なのに


俺のリクエストに答えようとホワイトソースまで作ってくれた加奈子。


散らかったキッチンからは

加奈子の充分すぎる一生懸命さが伝わってきた。