親父、ホントにここにわたしを置いて行く気?


 目の前にそびえ立つ純和風な門構えに、はっきり言ってわたしはビビってる。

死んだママのお姉さんちって聞いていたのに

――いたのにですよ

目の前のこれはどう見ても、時代劇の大名屋敷。

インターホンとかある?


キョロキョロとあたりを見回すわたしを尻目に、親父はさっさと敷地に入って行く。



そりゃあ門は開いているけどさ、門番が出て来て取り押さえられるんじゃないの?


「志鶴、早くしなさい」

親父が振り向いて言った。


うん 門番も忍者もいなさそう


手にしたかばんを抱え直して、わたしは門から足を踏み入れた。



親父とママは周囲の反対を押しきっての駆け落ち婚。

だからママの親戚って誰にも会ったことがない。

もっとも親父の方も、介護付きの老人ホームに入居してるおばあちゃんがいるだけだ。

今まで親父とわたしと2人きり、肩寄せ合って仲良く暮らしてきた


――つもりだったのに


2ヵ月前のある朝

親父は

「海外赴任することになったから」

いきなりの爆弾発言!

朝にだよ

トーストのどに詰まりそうになった。


「期間は3年間だ」

「3年も? じゃあ わたしも一緒に行くの?」

「紛争地域だからお前は行けないよ」


親父の仕事は報道記者。

今までも数日間家を空ける事は何度もあったんだけど……



「お前のことはママのお姉さんに頼もうと思ってる」



えぇーーっ! 誰それ?



ミサイル発言命中だ……