「つまり、おたくの渡り鳥保険は入院のみ保険が降りるわけだな」

今の状況を整理しようとした。

『そうなります』

黒川は天井を見上げた。
公衆電話で良かった。
もし、渡り鳥保険の支社の社員と直接話していたら、机を叩き警備員に連行されていただろう。

いったん、呼吸を整えた。
冷静になれ………
冷静になれ………
何度も自分に言い聞かせた。

「渡り鳥保険には、がん保険で通院用のプランがあったのか」

これは自分の失敗だと思えた。
もっと契約書を読むべきだった。
そうすれば、こんなことにはならなかったはずだ。

『ございません』

その答えを聞いた瞬間、今までピアノを弾くように動かしてた左手で拳を作り、公衆電話を叩いた。

「………ふざけんな!
詐欺だろ」

怒鳴り声が待合室に響いた。
怒りも限界だった。
何のための保険だ。
俺は今まで何のために支払っていたんだ。
黒川の叫びを聞き、警備員や近くにいた医師達が近づいてくる。

「大丈夫ですか」

警備員が黒川に話しかけていた。
だが、その行為など、今の黒川には入らない。

『もう一度、弊社の契約書をご確認してください』

明るい声の裏に影が潜めているように感じた。