催眠とは、暗示をかけるものである。
だが、催眠には細民という言葉にも聞こえてしまう。
本来、催眠は後者を意味しているのかもしれない。
「下層の民・貧しい人々」
催眠を行う際、人は第二者を自分より大きな存在とされる。
たとえば、医師が患者に差意味をかけて、「あなたの財産を全て、私に与えなさい」という。
それはないだろう。
そう感じてしまうかも知れない。
だが、ここでは、ただの例えばなしだ。
患者は迷わずに財産を渡すだろう。
なにも疑わず。
それが当たり前と思うように・・・
つまり、医師は診察という儀式を行うことで、あるいは手術という儀式を行うことで、患者を細民にさせる。

話はとんでしまったが、これが社会のシステムだ。
言葉とはその存在を示す。
ひらがな・カタカナ・漢字と意味は違いが言葉はひとつだ。
文字化と言語化
学び方と教え方
見ると診る
・・・

黒川は電車の一本のつり革を両手で握り、一瞬だが背筋を伸ばした。

「次は、高田馬場。
次は、高田馬場でございます」

アナウンスを聞き、左を離した。
そのまま、左手を自分の頭にのせ、自然と髪を掻いた。
その後、首の方へ左手を伸ばし、自分の首を強く握った。
軽いマッサージをしているようにも思える動作だが、実際は逆だ。
ストレスで自分を痛めつけている。
人間の持つ、いいや、動物、生命なら誰しもがもつ、自虐だろう。
辛さを忘れようと、自分に言い聞かせたいのかもしれない。
電車がブレーキをかけ始めた。
周りの乗客がつり革に捕まり、倒れないようにと足でう会えているなか、黒川はただ呆然とつり革をつかんでいた。

電車の揺れが大きくなった。
これは電気ブレーキが空気ブレーキに変わったためだろう。
なぜ、そのことを知っているのか。
黒川は子供の頃は鉄道が大好きだった。
そのため、ある程度の仕組みは知っていた。
だが、それは今の状況では、静かに語ることができない。