そう言って穏やかな笑顔を俺に向けるマスターを見ていたら、急激に涙が込み上げ、それを止められなくなってしまった。


「中島さん……?」


俺は「すみません」とマスターに頭を下げ、ドアへと向かった。


背後で、「中島さん、傘……」という柚子ちゃんの声が聞こえたが、俺は振り向くことなくドアを開け、外に出た。


正にドシャ降りの雨が容赦なく俺に降り掛かり、あっという間に全身がずぶ濡れになった。


俺は涙を洗い流すかのように、雨に向かって顔を上げたが、涙が止まる事はなかった。