夜月の歩いていた横を
一台の普通車が信号もない所で
急ブレーキをかけて停まる。



その車を夜月は煙草に
火を付けながら見ていると
車内には男女のカップルが乗っていて
男の方が剣幕な表情で
何かを女に言っていた。



きっと喧嘩でもしているのだろうと思った時、傘も持たずに
女の方が車から
追い出される様に出て来る。



「忘れ物だ」と言って女のバッグを
男が路上に投げ飛ばして
車はすぐに去って行った。



置き去りにされた女の様子を伺うと
明らかに泣いていて目を赤くしていたのが分かる。



煙草を吸っていた夜月が
泣きながら駅方面へ歩いて行こうとした女に声を掛けた。



「大丈夫か?」



「!」



女は声に気付き、足を止めて
少しだけ振り返る。