「話してみたいと思ってた」
ふかやくんが信じられないことを言った。
急にもっと顔が熱くなって、すぐに臨界突破して、泣きそうだ。
「陸上が、好きなわけじゃないよ」
涙をこらえるために必死に口を動かした。
わたしはいま、なにを言おうとしてるの?
「わたしが好きなのは」
――わたしが、好きなのは。
「知ってる」
うそだ。最後まで聞いてよ。
でも、聞かなくていいよ。
口にしたら今度こそ本当に死んでしまう気がするから。
ああやっぱり、言えないな。
「……優勝、したんだよね。3000メートル。すごいね。おめでとう」
ふかやくんが笑った。
優しく目をすぼませて。
黒の瞳にわたしを映して。
「ありがとう」
ふかやくんはどこまでも不思議だった。
目が合ったら、話してみたら、彼のこと少しでも知れるんだと思っていたけど。
ぜんぜんダメだね。
「走るのが好きなんだ」
わたしはもしかしたらこの言葉を聞くために、きょうここに来たのかもしれない。
ふかやくんはきっと、陸上を続けていく。
これからもずっと走り続けていく。
背筋をぴんと伸ばして。
まっすぐ前だけを向いて。
追い風はいつまでもきらめいて、ふかやくんの背中を優しく押していくのだろう。
【追い風はきらめいている】END



