とある堕天使のモノガタリⅢ ~ARCADIA~





忍は部屋に戻るとバルコニーから顔を出した。


開け放たれた窓際に入り込んでくる風が心地よい。



まだ上空を旋回しているバジリスクに思い切って声をかけた。



「あなたバジリスクでしょ?少し話さない?」




そう言ってみたが、彼女はなかなか降りて来ない。



「…そっか…人間嫌いだったっけ…」




忍は独り言の様にブツブツと呟いた。




「…私はどうしたらいいと思う?
早く右京に記憶を取り戻して欲しいけど…でも、自力で思い出さないと意味がない気がするの…」



頭上でバサバサと羽音が聞こえた。



バジリスクの姿は見えないが、どうやら屋根の上に居るらしい。




しばらく間があったが、突然頭の中に少し高めの声が響いた。




─それで良いと思います。




少し驚いて上を見上げるが、姿は見えなかった。



「あなたもツラいわよね…バジリスク…。」




─私は…ウリエル様が苦しんでいる姿を見るのが…ツラいです。




「あなたが右京の傍にいてくれて良かった…」



ウリエルの従者として長年彼を支えていたバジリスクだ。


記憶がなくてもその存在の大きさは変わらないだろう。



自分は…右京にとってどれだけの存在なのだろうか…。