忍は部屋に戻るとバルコニーから顔を出した。
開け放たれた窓際に入り込んでくる風が心地よい。
まだ上空を旋回しているバジリスクに思い切って声をかけた。
「あなたバジリスクでしょ?少し話さない?」
そう言ってみたが、彼女はなかなか降りて来ない。
「…そっか…人間嫌いだったっけ…」
忍は独り言の様にブツブツと呟いた。
「…私はどうしたらいいと思う?
早く右京に記憶を取り戻して欲しいけど…でも、自力で思い出さないと意味がない気がするの…」
頭上でバサバサと羽音が聞こえた。
バジリスクの姿は見えないが、どうやら屋根の上に居るらしい。
しばらく間があったが、突然頭の中に少し高めの声が響いた。
─それで良いと思います。
少し驚いて上を見上げるが、姿は見えなかった。
「あなたもツラいわよね…バジリスク…。」
─私は…ウリエル様が苦しんでいる姿を見るのが…ツラいです。
「あなたが右京の傍にいてくれて良かった…」
ウリエルの従者として長年彼を支えていたバジリスクだ。
記憶がなくてもその存在の大きさは変わらないだろう。
自分は…右京にとってどれだけの存在なのだろうか…。

