『この国は治安が良くないって聞いてたからね…用心してて良かった…』
何もしらない観光客は強盗する側から見ればいいカモだろう。
その点この男は旅慣れていたお陰で被害もカメラだけで済んだのだ。
恐らく強盗は満足していない。
次に襲われるなら、さっき酒場の主人が言ってた観光客か?
ユーリの客でもあるその観光客が襲われたらガイドどころではないだろう。
その臨時収入があるのとないのではかなり違うはずだ。
右京の様な居候まで世話しているのだから…
『あんた、歩けるか?』
『ああ…大丈夫。』
『ここからなら街までそう遠くない。
あんたは先に街に戻ってろ。』
『きっ…君は?』
『…相棒が騒いでんのが気になる…もし強盗を見つけたら盗られた荷物取り返してやるから!』
不安そうなその男は躊躇いがちに頷いた。
右京はポンポンと彼の肩を叩くと空を仰いだ。
『バージ!どっちだ!?』
右京の声に反応してバージは甲高く一声鳴くと、道の先へと飛んで行った。
右京はそれを追って再び走り出す。
日本人カメラマンは右京の足の速さに「…すげぇ」と呟くと、あっという間に見えなくなった方向をただ唖然と見つめるのだった。

