バジリスクはどう言ったら良いか言葉を探す。



記憶がないのなら『貴方は元熾天使です。』なんて言ったら混乱するか失笑されるかで、まともに取り合ってもらえないだろう。



彼女のオロオロとした挙動を見てウリエルは『怖がらなくていいよ』と優しく微笑んだ。




その懐かしい彼の表情に切なさが込み上げて来る。



自分の事を憶えていないショックより、何も判らない彼が不憫でならないのだ。



彼は自分が居る岩に寄りかかって腰を下ろした。



『おいで。俺の事を教えてくれよ…』




どこか寂しげにそう言うウリエルにバジリスクは一瞬躊躇したが、ピョンと岩から飛び降りた。



目の前に腕を差し出され、少し戸惑いながら足をかけた。



ウリエルは優しくバジリスクを撫でる。



手の温もりは以前と変わりなく安心出来た。



ふと彼が口を開いた。



『…君は…なんて名前なんだい?』




バジリスクはウリエルの頭の中に直接語りかける。



─…バージ…



本当に応えると思っていなかった様で一瞬驚いた表情をしたが、何かを感じ取ったみたいだった。



『バージ…やっぱり君は俺の事を知ってるんだね…?』




返事の代わりに鳥らしく鳴いてみた。