とある堕天使のモノガタリⅢ ~ARCADIA~




右京が煙を裂くように歩く姿はまるで映画の“十戒”を観ているようだ。



『…お前は“モーゼ”かっての…』




クリスがそう呟きながら右京の後を追う。




中は外と同様、静寂と闇だった。




右京は誰かの気配を感じて辺りを見回した。




『バージ…!』




木の下に座り込んだバージを見下ろす様に立つストリゴイにクリスがコルトを構えた。




だが、すぐその様子がおかしい事に気付いて銃口を下げた。




ストリゴイは既に灰と化しており、クルースニクの彼ですら見たこともな速度でゆっくりと崩れていく。




『…これがバジリスクの毒か。』




右京はバジリスクに駆け寄るとその傍らに膝を着いた。




『バージ…大丈夫か?』




『マスター…申し訳ありません。大量のバンパイアを灰にしてしまいました…』




『いい…もう充分だ。』



そう声をかけると、バジリスクは弱々しく微笑んだ。




『傷を見せろ。』




『まだ出血しています…触らないで下さい。』




そう言って腕を出した。




『ったく、無茶しやがって…。少し我慢しろよ?』




右京は溜め息混じりにそう言って傷に手を翳した。