右京が煙を裂くように歩く姿はまるで映画の“十戒”を観ているようだ。
『…お前は“モーゼ”かっての…』
クリスがそう呟きながら右京の後を追う。
中は外と同様、静寂と闇だった。
右京は誰かの気配を感じて辺りを見回した。
『バージ…!』
木の下に座り込んだバージを見下ろす様に立つストリゴイにクリスがコルトを構えた。
だが、すぐその様子がおかしい事に気付いて銃口を下げた。
ストリゴイは既に灰と化しており、クルースニクの彼ですら見たこともな速度でゆっくりと崩れていく。
『…これがバジリスクの毒か。』
右京はバジリスクに駆け寄るとその傍らに膝を着いた。
『バージ…大丈夫か?』
『マスター…申し訳ありません。大量のバンパイアを灰にしてしまいました…』
『いい…もう充分だ。』
そう声をかけると、バジリスクは弱々しく微笑んだ。
『傷を見せろ。』
『まだ出血しています…触らないで下さい。』
そう言って腕を出した。
『ったく、無茶しやがって…。少し我慢しろよ?』
右京は溜め息混じりにそう言って傷に手を翳した。

