…死体は無かった。
それを見てクリスは理解した。
『…人間じゃなかった…』
『そうだ。人間じゃない。見た目に惑わされるな。』
“見た目に惑わされるな…非情になれ…”
グレイの口癖はクリスの口癖となった。
任務の時、クリスは呪文の様にその言葉を繰り返す。
クリスは20歳までイストリアのこの集落で“クルースニク”として生活していた。
皆に頼りにされていたし、自分の宿命も受け入れているつもりだった。
だが、ある事件を境にクリスの人生は在らぬ方向へと向かい出す。
それは貿易商をしていた父親の手伝いで半日島を離れた時に起きた。
アドリア海を船でイストリアへと帰港する最中、島にかかる不穏な空気が気になった。
父親にそれを言うと彼も表情を強張らせる。
『父さんは船で待ってて。俺が様子を見て来るから…』
そう言って桟橋に飛び降りたクリスに父親は『気をつけろよ!』と声をかけた。
“クルースニク”に気をつけろって…
クリスは笑いながら『わかった』と言いながら集落へと急いだ。
次第に濃くなる邪気にクリスは銃を抜いた。

