とある堕天使のモノガタリⅢ ~ARCADIA~





『本人に…って…』




あそこまで言い切るんだから本当に何もないのかもしれないが…。




ニックは寝室を覗くと、まだベットの上に座ってぼーっとしているバージにドキドキしながら声をかけた。




『ちょっと…話せるかい?』



『……なんでしょう……』




機嫌が悪いのかよく判らないが、感情のない声にニックはちょっと怯んだ。




『こ…答えたくなかったらいいんだが……君は昨日からここに寝てたんだよな?』



『…はい。寝てました。』




『何故?』




『マスターに“おいで”と言われましたから…』




『……』




…先入観のせいだろうか?



“おいで”と言う言葉がこんなにヤラシイと思った事はない。




『……疑っていらっしゃるのですね?』




微かに笑みを浮かべたように細めた目に見つめられ、思わずゴクリと唾を飲んだ。




『…マスターはとても優しい方です。…でも時にその優しさは残酷です。』



バージは長い睫毛を伏せ、寂しそうに笑った。




『あの方が必要としているのはただ独りだけです…。それは私ではありませんし、私も何も望んでおりません。』




はっきりとした口調でそう言う少女は大人びて見えた。