『本人に…って…』
あそこまで言い切るんだから本当に何もないのかもしれないが…。
ニックは寝室を覗くと、まだベットの上に座ってぼーっとしているバージにドキドキしながら声をかけた。
『ちょっと…話せるかい?』
『……なんでしょう……』
機嫌が悪いのかよく判らないが、感情のない声にニックはちょっと怯んだ。
『こ…答えたくなかったらいいんだが……君は昨日からここに寝てたんだよな?』
『…はい。寝てました。』
『何故?』
『マスターに“おいで”と言われましたから…』
『……』
…先入観のせいだろうか?
“おいで”と言う言葉がこんなにヤラシイと思った事はない。
『……疑っていらっしゃるのですね?』
微かに笑みを浮かべたように細めた目に見つめられ、思わずゴクリと唾を飲んだ。
『…マスターはとても優しい方です。…でも時にその優しさは残酷です。』
バージは長い睫毛を伏せ、寂しそうに笑った。
『あの方が必要としているのはただ独りだけです…。それは私ではありませんし、私も何も望んでおりません。』
はっきりとした口調でそう言う少女は大人びて見えた。

