部屋を出て、玄関へ向かおうとしたときだった。



「香乃」



後ろから、聞きたくない声でアタシの名前を呼ぶ人。




「なに?」


母親が、ぼさぼさの頭でこっちを見て立っている。




「なにじゃないでしょ。アンタ、どこ行くの?」


「別にどこでもいいでしょ。あんたには関係ないんだから」



「仕事は?」



「今日休みだし」


「そう」



アタシは、靴を履こうとした。



「ねぇ」


「なんだよ!しつこいんだけど」



「・・・」



「何もないんだったら、行くから。じゃあね!」



「お金!!!貸してよ」