Mに捧げる

正樹を人間のクズだと罵った安藤美佐子。


けれど、彼女は正樹を失った悲しみを分かち合える、世界でたった一人の存在に思えてならない。


現に彼女は、こうして涙に暮れている。


頬を濡らしていた涙の跡を拭うと、都は美佐子の傍に歩み寄った。


声をかけようか躊躇っていると、美佐子はその気配に気づいたのか、顔を上げる。


二人の視線が交じり合い、重い沈黙が流れた。


美佐子の表情から先程までの敵意は消えていたが、虚ろになった目を何度も瞬きさせている。


そんな彼女を見ているうちに、奇妙な感覚が都を襲った。


以前もこれと同じ場面に遭遇しているのだ。


無論、安藤美佐子と会うのは今日が初めてだった。


彼女の名前を聞いた覚えもない。


それにも関わらず、既視感にも似た懐かしさが込み上げてくる。


この正体は一体なんだろう。


都は首を捻り、顔を歪めた。


すると、美佐子は口元を緩めて、思いも寄らぬ言葉を口にした。


『久しぶりね…』