共に在る者

「あっ!お兄ちゃん、ちょっと待って!」

 リリは慌てて当夜の左腕の袖口を引っ張る。

「ん?どうした?」

「あの……、マーサにお別れのあいさつをしたいの。

 きちんとお別れしてないから……」
 

 目を細めて微笑むトウヤは上げていた腕をすっと下ろした。

「分かった、一緒に行こう。

 大切な妹にずっと寄り添っていてくれたお礼を、僕からも言わなくちゃね」
 
 左手でリリの右手をつかむと2、3度翼を羽ばたかせて宙に舞い上がる。
 


 まだ皆が寝静まっている夜明け間近。

 二人の天使の姿を見かけた者は誰もいなかった。



 朝を迎える頃には久しぶりに雪が止み、輝くような朝陽が顔をのぞかせて一面の銀世界をまぶしく照らし出す。

 太陽が少しずつ天へと昇り、朝焼けの空が徐々に青味を帯び始めると、雪に覆われたマーサの墓石の前に小さな花が一輪つぼみをほころばせた。


 今だかつて誰も見たことのない珍しくて色鮮やかな花。

 だけどなんとなく知っている気がする……。そんな懐かしさを与えてくれる一輪の小さな花。
 
 日差しを浴びてゆっくり、ゆっくりと花びらを開かせてゆく。
 
 真冬のこの時期にこれほど見事な花をつけるなんて無いのに……と村中の人々は不思議に思い、そしていつ、誰が植えたのかとしばらくの間この花の話題で持ちきりだった。

 
 日の光はまぶしく、輝く雪は何も言わず、ただそこにあるだけ。


 
 どこかで“リ……ン”と小さな鈴が転がる音がした。




                【 終 】