「ねえ、マーサ……」

 リリは小さく呼びかけた。
 
「なぁに?」


「私ね……、本当はずっと寂しかったんだぁ」

 マーサは何も言わず黙ってリリの話を聞いている。


「みんなが優しくしてくれてすごく嬉しいんだけどさ。

 一緒に遊んでいる子のお父さんやお母さんが迎えに来るのを見て“いいなぁ”っていつも思ってた」


「そう……」


「でもね、さっきのマーサの話を聞いて元気が出たよ。

 私は絶対にパパとママのところに帰るんだ」
 
 
 自分の寂しさを無理矢理押し込めた作り笑いではない、リリの明るい笑顔がそこにはあった。



「あなたの家族に会える日が早く来るといいわね」

「きっと大丈夫だよ。……って、これはマーサのセリフだったね」
 
 2人とも目を見合わせ、思わず笑い出した。



 真っ赤に色付いた山の木々たちが、日々冷たさを増す風にさらされて葉を落としてゆく。

 かさかさと舞う葉音は徐々に近づいてくる冬の足音のようだ。
 

 そんな寒さが忍び寄る夜、リリは久しぶりに晴々とした気持ちで眠りに付くことが出来た。