少女はしばらくマーサの顔を無言で見つめていたが、スッと目線をはずす。

 床に届かない自分のつま先をじっと見つめながら一生懸命に思い出そうとしているようだが、やがて頭を左右に小さく振った。

「わからない。わからない……」

 ぽそりとつぶやくと、目を伏せる。
 
 少女は困ったような悲しいような表情になり、口元をきゅっと結んだ。

 泣き出したいのをこらえるためか、ソファーに置かれた手が生地をつかんでは小刻みに震えている。



「そう……」
 
 マーサは少女に気付かれない様にそっとため息をついた。


「その他に何か覚えていることはある?

 住んでいた場所の様子とか。

 どんな小さなことでも良いのよ」

 うつむく少女の顔をマーサは覗き込みながら尋ねる。



 しかし、少女は無言のまま首を振るばかり。