3日程この小さな家で寝起きを共にした結果、ようやく少女の精神状態が落着いてきたようだ。

なので、マーサは少女に名前を尋ねてみることにした。

 少女の家族が見つかるまでのこの先何日かは2人で生活していくことになるだろうから、やはり呼び名は必要だろうと考えたのだ。

 いつまでも“お嬢ちゃん”と呼ぶのは、その子の存在をしっかりと認識してあげてないように感じていたからである。


「ちょっと、こっちにいらっしゃい」
 
 小窓から見える大樹を眺めていた少女に声をかけ手招きすると、火をともした暖炉の近くに呼び寄せた。

 あまり弾まない粗末な2人がけのソファーに横並びに座ると、マーサは軽く息を吐き、意を決して話を切り出す。


 ただし、少女が警戒しないようにあくまでも態度は穏やかに。


「ねぇ。

 あなたは今まで皆からなんと呼ばれていたのか、思い出せたかしら。

 良かったら私に教えてくれない?」
 

 自分の右側に腰を降ろした少女の髪をなでてやりながら、優しく、そして深刻さが伝わらないようにさりげなく尋ねてみる。