僕のミューズ


「ごめん、遅くなって」

俺はそんな芹梨の前で、軽く頭を下げる。
相変わらず真っ直ぐ俺を見つめる瞳は、俺の頭の上下運動をなぞった。

そうして芹梨は少し笑い、首を横に振る。
頬にできるえくぼが、やっぱり可愛いと思ってしまう。


「遥君、だっけ?」


そんな芹梨の横から、ずいっと顔が伸びてきた。
ショートカットのアッシュヘアに軽くパーマがかかっている。

俺はその顔を見て、一瞬構えてしまった。

「こないだはごめんね、ここ」

彼女はそう言っていたずらそうに笑い、自分の頬を指差す。
あの日、俺を凄い剣幕でひっぱたいた彼女とは思えない、人懐っこい笑顔だった。

「あたし目の前のことしか見えないタイプでさ。後から芹梨に、芹梨も叩いたって聞いて、二発はなかったなぁって」

あの日の芹梨と同じ様な事を言いながら、ごめんねと謝る仕草をしてみせた。

思ったより、とっつきやすい子なのかもしれない。

「じゃ、揃ったし行きますか~!」

既にテンションの高い真二を先頭に、店まで向かうことになった。
後ろを歩きながら、芹梨の背中を見つめる。


ふわりと風に舞う綺麗な髪の毛が、冬と春の中間の空気を揺らした。