よく考えたら、俺は彼女の事をよく知らない。


名前が芹梨ということ。

黒髪で、スタイルがいいということ。

耳が…聞こえないということ。


『うちの大学じゃないんじゃない?』

ある時、紺が俺に言った。

『うちの大学だったら、多分すぐ見つかるでしょ』
『どういう意味だよ』
『あれだけ可愛かったら目立たないはずないし、それに、これもあるし』

紺は自分の耳を指さして言う。

『別に、差別的なこと言ってるんじゃないよ。ただあれだけ可愛くて学内で手話やってたら、誰かしら知ってる子はいるでしょ』

俺が知る限り紺はいい奴だから、別に彼女の事を特異な目で見ているわけじゃないことはわかった。

でも、確かに、紺の言う通りだ。


「探しようがねぇよなぁ」

思わず呟いてしまい、隣の女の子にまた奇異な視線を向けられる。

俺はばつが悪くなりコーヒーを口に運ぶが、中身は空でばつが悪くなるばかりだった。

軽くため息をついて再び街に視線を向ける。
道路を挟んで反対側は、ヘアサロンやネイルサロン、お洒落なカフェがあり、俺と同じくらいの年の子達がちらほら見えた。