僕のミューズ


その行動の真意がわからず、俺は一瞬呼吸をすることすら忘れる。

そんな俺に構う事なく、芹梨はその表情のまま今度は上に着ていたニットに手をかけた。

そこでようやく事態を飲み込んだ俺は、慌てて立ち上がりその手を制する。

「おい!何やってんだよ!」

服を脱ごうとする芹梨を止めようとしたが、この細い腕のどこにそんな力があるのかと思うくらい芹梨の手は俺の言うことを聞かない。

俺の手を無理矢理払いのけ、唇を噛みしめニットを脱ごうとする芹梨。
俺は「芹梨!」ともう一度その手を掴んだが、芹梨は思い切りそれを振り払い、その勢いで俺の頬を叩いた。


ぱしんと冷えた音が部屋に響く。

その衝撃が、一瞬俺の中に空白を作る。


あのショーの日が、一瞬脳裏を過ぎった。


俺はゆっくりと芹梨に視線を送る。

やや呼吸の上がった芹梨の頬は紅潮し、そこには一筋、涙の線が浮かんでいた。


俺は息をのんで、その表情を見つめる。