僕のミューズ


「描けねえんだよ。芹梨に着せるドレスが描けねえんだよ!描こうと思うと、あの日芹梨が着てた白いドレスが脳裏に浮かぶ。あの白い、完璧な世界が視界を塞ぐ。あの世界の真ん中にいた芹梨に着せるドレスなんか、俺には描けない。描こうとしても、何にも浮かばないんだよ!」

声の大きさは届いていない。
でも、俺の表情や空気を感じ、芹梨の眉間にしわが寄る。

「他のモデルも探したよ。でもどの子を見ても何にも浮かばない。無難なものしか描けない。変わらないよ。俺の中のミューズは芹梨なんだよ。でも…でも、その芹梨の為のドレスすら描けねえんだよ!」

半ば叫ぶ様にそう言い、衝動に任せて手元のスケッチブックを床に投げ捨てた。
ばんっと嫌な音が狭い部屋の中に響き渡る。
芹梨の肩が一瞬揺れた。
多分芹梨には、空気で伝わったのだろう。

でも今の俺には、それを思いやる余裕はなかった。


「俺には…芹梨のドレスは、荷が重すぎる」