僕のミューズ



……………


自分の部屋に芹梨がいるのが久しぶりで、なんだか居心地が悪かった。

芹梨も同じように感じているのか、テーブルの前に立ったままコートを脱ぎ、視線を泳がしている。

俺は小さく頭を掻いて、ベッドの縁に座った。

「座ったら」

俺がそう言うと、芹梨は少しだけ笑って見せたが、その体勢を変える事はしない。

コートだけ側に置いて、逡巡しながら手話を始めた。

『ドレス…まだ、できてないんだね』

『伊織から聞いた』と続けるその手話を、俺は横目で見る。

「あぁ」と小さく呟いたが、多分それは芹梨には届いていないだろう。

それでも芹梨は少し俯いただけで、表情を変えずに続けた。


『もう…あたし、降ろされたってことだよね』


…降ろされた。

その言葉は決して耳に届くものではない。
でも確実に、俺の心を揺さぶった。