僕のミューズ


唇が触れる直前、俺はぐっと自分の唇を噛みしめて、芹梨を強く抱きしめた。

驚いたのか、芹梨は俺の腕の中で少し身をよじる。
でもそれは一瞬で、すぐにその両腕を俺の背中に回した。

…このまま、このままずっと。

「芹梨」

俺は少し離れて、芹梨が唇を読める距離で言った。


「今日、泊まってって」


その意味がわかったのか、芹梨は少し目を丸くした。

何か言いかけたが、俺の表情を見て、ゆっくりとその目を優しくする。

芹梨は、どう思ったのだろうか。


『…いいよ』


その綺麗な指先で、俺の渦巻いた暗闇を、肯定してくれた。